福岡北ライオンズクラブの第988例会は、4月25日午後零時半から、福岡市中央区の天神スカイホールで開かれました。
例会では、4月21日に開催された第65回地区年次大会の報告などが行われました。
この日は、NPO法人LOTUS 理事長の小宮豊様より、ご講話をいただきました。テーマは「メンタルヘルス対策」。
《講話要旨》
★発病後治療より発病防止対策が重要
日本の企業では、社員が心理的な病気にかかってしまうと、病院で治療させるのが一般的ですし、そういうケアが大切だと思われがちですが、実は違う。心理的な病気にならないような予防策こそが重要なのです。それはなぜか。
実は、心理的な病は、従業員本人にとって当然重大ですが、そうした従業員を抱える企業にとっても、そうした企業が構成の一員となっている社会にとっても、深刻な問題なのです。だからこそ、企業として事前の対応に取り組む姿勢が問われるのです。
●直接費用と間接費用を知る
ここに慶応大学がまとめた平成22年(2010年)の調査データがあります。その金額は驚くべき額になっています。疾病費用の総額は、統合失調症の関係で2.7兆円、うつ病性障害の関係で3.1兆円、不安障害の関係で2.4兆円にのぼります。
この疾病費用は「直接費用」と「間接費用」とに分けられます。直接費用は医療機関の利用などにより発生する費用です。こちらは分かりやすい。一方、間接費用は分かりづらいですが、例えば、従業員が心の病になり、早退したり休み続けたりすれば、組織としては生産性や能率が落ちる。本来なら生み出されるはずの利益が失われる。さまざまな形での社会的損失を積算したものが間接費用です。
しかも問題なのは、直接費用(医療費)よりも間接費用(欠勤・早退、不調による社会的損失=生産性に直結する)の比率が高いということです。今、政府は医療費の抑制政策を推し進めていますが、医療費のような直接費用を圧縮すると間接費用が増える、という関係性があり、難しいところです。
●頑張りすぎる個人 フォローは企業の責務
こころの病にかかっても、従業員はすぐに能率低下を起こすわけではありません。むしろ初期には一時的にパフォーマンスを上げる。頑張りすぎてしまうのです。「ストレスなんかに負けてたまるか」「うつ病なんかじゃない」という気持ちが症状を悪化させます。そしてついには伸びきってしまい、パワーが落ちる。
こころの病にかかった従業員は、ちょっと調子が悪いなあと思うくらいのレベルでは、即刻病院に駆け込むということは、あまりありません。すぐには医者にかからないのです。頑張ってしまうのです。しかし、そういうところまで行ってしまうと、もう1週間や2週間では元に戻れない。何か月もかかってしまうこともある。本人だけではどうしようもなくなるのです。こうなると、企業の生産性に大きな影響を与えることになってしまう。いくら調子が悪くても、従業員は自分から率先して病院に行こうとはしない。だからこそ、会社のフォローがないと、事態は難しくなってしまいます。
いったん心の病になってしまうと、従業員個人は復帰するまでに時間がかかり、その間企業は人的資源を失い、生産力を落とし、しかも人件費負担はさして低下しない。働く人が疲れてしまうと、人も企業も体力が落ちるのです。そういう状況が拡散すれば人や組織を守る社会全体も疲弊するわけです。
●まとめ
こころの病は、手厚い事後対策よりも、そういう事態にならないように未然防止を図ることが肝要です。多くの企業・団体が、従業員の過労うつ診断や過労自殺防止に向けたマニュアルを作成し、早期発見、早期治療を心がけるようになってきましたが、本当に重要なのは、従業員の「こころの健康」を守り、発症を防ぐことなのです。そのための仕事の改革、職場の改革、人事・組織の改革はどうすればいいのか?という視点が重要です。
社員が心の健康をキープすれば本人の幸福度は高い状態で維持され、やりがいも高まります。そういう社員で構成される企業は伸びますし、企業自体の健全性は強くなります。そうした企業や団体で構築される社会は理想的な方向に発展し、将来にわたって健全社会の創成・継続につながっていくのです。